2015年5月26日火曜日

十八史略(57)-伍子胥と呉越戦争(18)

 「范蠡、そなたの言葉に従わなかったためにこういう羽目に陥った。しかし、どうしたらよいであろうか」

勾践は范蠡の前にうなだれた。

范蠡は答えた。

「恥を忍んで降伏する以外にないでしょう。越の宝物をすべて呉に献上し、わが君自らが、呉王にお仕えなさい」

「わたしに夫差の奴隷になれと申すのか」

「奴隷になれたら、めっけものです。命があれば今日の恥を雪ぐ日もございましょう」

「夫差はわたしを許すであろうか」

「伍子胥が反対するでしょう」

「それでは、わたしの命はないではないか」

「呉王夫差が必ずしも伍子胥の進言を聞くとはかぎりません」

「しかし、夫差は伍子胥の言を聞くこと父のごとしというぞ」

「呉の重臣は伍子胥だけではありません。伯嚭もかなりの影響力をもっています。この男、財物に弱いと聞いております」

「買収するというわけだな」

「その役目なら種(しよう)がよかろう。しかし、それだけで、大丈夫だろうか」

「呉王夫差が伍子胥の主張にどこまで対応できるかでしょう。1対1では、夫差は伍子胥に屈するでしょう。だから、伯嚭に夫差を応援させるのです」

「伍子胥の強い意見に伯嚭の後押しだけで勝てるだろうか」

「まだほかに打ってございます」

「どんな手か?」

「西湖のほとりにひとりの女をおいてあります。呉王に献上するためです。呉王への影響力を発揮する術は、その女に授けてあります」

「どのような女か?」

「絶世の美女でございます。幼い頃からわたしの手元においておりましたが、長じては、呉王夫差の性格を研究し、夫差が喜びそうな女に育て上げました」

「范蠡、おまえは?」

勾践は絶句した。

范蠡は複雑な表情をした。

そこまで用意していたというのは、范蠡は勾践が夫差に敗れることを見通していたということになる。

 

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