2014年9月11日木曜日

「十八史略(26)-驪姫と重耳(2)」

 賢い驪姫は、三公子の派閥があることを知っていた。そのなかで、最大の派閥は太子申生の派閥である。

申生が曲沃から戻って参内したときに、驪姫は申生を園庭に招き入れた。

 その前日、驪姫は献公に、
 「申生様は面白いお方ですね。今日もきわどいご冗談を言われたのですよ」

 「どんな冗談を」
 お祖父さまは亡くなって、わたしの母を父上に遺した。お父上もお亡くなりになれば、わたしにそなたを遺してくれるであろうか、などと」

 「まさか、申生が」と献公は絶句した。

 「信じられない」

 「それなら、申生様はわたしを明日、園庭にお誘いになりました。ここから見ていてください」

そこから、園庭はよく見える位置にあった。

驪姫から招待を受けた申生は園庭の花壇のそばで待っていた。

前日、驪姫は申生に
 「わたしが丹精こめた、牡丹をお見せいたしますわ」
 と誘ったのである。

申生は優しい人間で花には目がなかった。すばらしい牡丹の花が見れることで浮き浮きしていた。

宮殿の楼上から、父の献公が見ていた。

驪姫が現れた。牡丹の鉢のほうに申生を案内した。申生の方に歩み寄った驪姫は、おびえた顔で首をすくめた。蜂が驪姫の首のまわりをまつわりついてきた。

「蜂を追ってください」と驪姫は申生に頼んだ。

申生は驪姫に近づいて、蜂を払おうとした。驪姫は両手で顔を覆いながら走り出した。

 そして、驪姫は宮殿に走りこんだ。後宮は申生も入ることが出来ず、追うことをあきらめた。

 楼上から見ていると、いやがる驪姫を申生が追いかけているように見えた。驪姫は献公のところに走り込み体を預けた。驪姫の顔は涙で濡れていた。

 「おのれ、申生め。すぐに処分しよう」と献公はいきり立った。

驪姫は「おやめください。いま申生さまを処分されようとしますと、この国は分裂いたします。いまはどうぞ我慢してください」と喘ぎながら言った。

献公は、右コブシを握り締め、わなわなと震えたがやっとのところで抑えたが、心の中では申生を廃立することを決心していた。

 「お分かりいただきましたか。わたしは、涙で汚れた顔を洗ってまいります」と、別室に移り、髪に挿した簪を抜き、洗った。簪には、蜂を呼び寄せるために蜜が塗りつけてあった。

 

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