2014年8月6日水曜日

「十八史略(3)―神話時代の羿(げい)(3)」

 そのほか、堯は怪獣や怪鳥、大海蛇などを退治して意気揚々でした。

 ところが天帝は9人ものわが子を殺されたので怒り心頭です。

「おのれ、羿のやつめ!羿の神の籍を剥奪せよ」と、部下に命じました。

神の世界にも戸籍があり、それを抹消されたのでは、羿夫婦は天上に帰ることは出来ません。神は天上に住む特権のほかに不死の特権が与えられています。しかし、神でなくなった羿夫婦には、人間並みに死が待っています。天上に帰れないまでも、死んで地獄に落とされるのだけは、勘弁してほしいと思います。

 このことが、原因で夫婦の間には、喧嘩の絶え間がありませんでした。

 そんなときに、羿は耳寄りな話を聞いてきました。

 崑崙山に西王母という神がいて、不死の薬を持っているといいます。ただし、途中の道は、普通の人間ではたどりつけない厳しい山道であると言われていました。しかし、羿にとっては、なんのこともありません。

 西王母に会うと、
「たしかに不死の薬は持っているが、あと二粒しかない。もうこれ以上はありません。吉日に夫婦で一粒ずつ飲みなさい。一粒飲めば不老不死。二粒飲めば、昇天して神になれます」と西王母は説明しました。

羿は喜び勇んで、妻のところに戻って、西王母の話を告げました。

「不死だけでいいじゃないか。二人でこの地上で仲良く暮らそうじゃないか」と言いました。

嫦娥は「そうね」とうなづきましたが、腹の中は

「このおとこのせいで、こうなったけど、わたしにはなんの責任もないわ」

嫦娥は、吉日を待たずに二粒とも飲んでしまいました。はたして彼女は身が軽くなり、天に昇っていきましたが、彼女は、途中で考えました。

「このまま天に昇ると、夫を置き去りにしてきたと陰口を叩かれるおそれがある。少しほとぼりが醒めるまで、一休みしよう」と、天と地の間に浮かんでいる月に降りました。
 
 
 
 

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