2014年4月9日水曜日

危険・狡猾な世帯課税

 所得税課税改革に取り組むポイントは、「個人課税」から「世帯課税」への移行、配偶者控除の廃止というものです。改革の理由として、女性の社会進出を促進するためだといっていますが、これが問題です。

OECD(経済協力開発機構)の主要24か国では、

個人課税は日本や英国、カナダ、スウェーデン、オランダなど15か国、

個人・世帯選択は米国、ドイツなど5か国、

世帯課税はフランス、ルクセンブルクなど4か国

となっています。

1979年代以降、世帯課税から個人課税へ移行したのが9か国、世帯課税から選択制への移行は2か国、選択制から世帯課税への移行は1か国となっており、「世帯課税から個人課税へ」というのが世界の趨勢になっているようです。

 その大きな理由は、個人課税の方が、課税の中立性があるからだと言われています。たとえば専業主婦が働こうとするとき、世帯単位課税では累進税率が効くため、税金が増えて不利ですが、個人課税なら中立的です。逆に結婚については、世帯課税が有利(結婚ボーナス)になりますが、個人課税では中立的です。

 税制には、簡素、公平、中立の三大原則がありますが、個人課税の方が中立性の点で優れています。世帯課税は、夫婦間の所得を合算した上で再び分割して課税するなど、一般的に複雑になり、個人課税の方が簡素といえます。また、個人課税の方が公平でもあります。

 個人課税が基本で、必要な時には控除措置で対応するのが、世界の常識になっています。今回の安倍内閣の政府案は、こうした世界の「常識」に全く反していると高橋洋一氏はいいます。

 本当に女性の社会進出を狙うのであれば、政府方針と全く逆に、所得税の基本は中立的である個人課税のまま、配偶者控除を拡充すればいいわけです。配偶者控除の拡充で多少は税収が落ちますが、女性に働いてもらって、その所得に課税して税収を増やすことができます。

 政府(財務省)の本音は、配偶者控除の廃止による増税でしょう。しかし、それでは世間の批判を浴びるので、個人課税から世帯課税への移行で、減税の雰囲気を出しているのだろうと高橋氏はいいます。配偶者控除と個人課税を同時に主張した場合、世界の趨勢からいって個人課税がおかしいとされ、配偶者控除だけが残るという「悪魔のシナリオ」からもしれないと高橋氏は警笛を鳴らしています。

 狡猾な官僚は、個人単位より家族単位の方がいいと信じている人が多いことをうまく利用して、個人課税を吹き込んでいるのでしょうが、あまりにひどい「増税志向」は、国の方向を誤らせる危うさを感じざるを得ません。

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