2013年4月14日日曜日

歳のせいで物忘れがひどいという誤解(4)~池谷裕二

 脳は何のためにできたのでしょうか?

 脳は思考のためにできたのではありません。敵が来たら避けるとか、身体感覚を身体運動に変えるためにあります。感覚を運動に変える。つまり、脳は身体に密接に結びついているのです。

 箸を口にくわえて漫画を読む実験します。箸を縦にして「んーっ」と上唇で噛むスタイルと、横にして「いーっ」と噛むスタイル、その二つのスタイルで漫画を読み、それぞれの漫画のおもしろさに10点満点で点をつけます。すると、箸のくわえ方によって点数が違うのです。「「いーっ」のほうが平均で2点も高いという結果が出ています。これは、「いーっ」のスタイルが笑顔の筋肉の使い方と似ているからなのです。漫画が楽しいから笑うという側面はもちろんありますが、むしろ逆で、笑っている(笑っている形をつくる)ことによって楽しくなってくる側面が強いのです。笑顔をつくると楽しくなる効果がある、ということです。

 「いーっ」と噛んだときの脳の活動を調べてみると、ドーパミン神経系が活動しているらしいということが分りました。ドーパミンは快楽を生み出す神経伝達物質といわれています。今回の実験で、「いーっ」と噛んだら本当に楽しくなってくる・気持ちよくなってくる、ということが脳研究の世界で初めてしっかり示されたということになるわけです。

 たくさんの単語を並べた中から「幸せ」や「快適」など、心地よさに関係した言葉を捜してもらったら、「いーっ」と噛みながら捜すとスピードが早くなったのです。

 脳よりも身体の方が大切で、身体に引っ張られるかたちで脳も活性化するのです。

 最近の世の中は、言葉で説明ができないことは往々にして否定されがちです。経験に裏づけされた直感はほとんどが正しいのに、言語で説明できないからといってバカにする世の中になっていることは、ものすごく残念で、ひいては人類の損失だと思います。

 直感力をさらに鋭くするためにも、日頃から身体を適度に元気しておきつつ、いろんなことに興味もち続けることは、とても大切だと池谷氏は言います。

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