2013年2月24日日曜日

松下幸之助は泣いている(9)


 鴻海精密工業の大型提携をまとめたシャープの町田勝彦相談役は、「事業っちゅうのは、腹をすかしたもん同士が目の色を変えてやらんことには成功せん」と言って、貪欲にビジネスに取り込む鴻海の郭台銘会長という「人物」を信頼したからこそ提携に踏み切ったことを明かしています。

近年の日本企業は、それほど大切な「人」を企業の宝として扱わなくなり、また育成の方針もなんとなくピントがずれたものになっています。そのきっかけは、やはりリストラによる企業風土の変化ではなかったのかと岩谷氏は語っています。

幸之助氏は、「10年以上、同じことをやっていたら今日の会社は落後する」とも語っています。

ある時期から新製品といえば高級路線ばかりということが続きました。「ものづくり大国ニッポン」が自信を持って送り出す商品は、必ず世界でも評価されるはずだという「驕り」があったのではないでしょうか。

日本の家電市場は世界の約10パーセントを占める大きなものです。それだけに、日本国内で成功を収めるとそれなりの規模の売上があがり、利益も出ます。しかし、だからといってそのまま世界に打って出て成功すると考えたら大間違いなのです。そのことを正しく認識し、その上で世界と対等に渡り合える人材を育成していくことこそが、日本家電復活へのもっとも近道ではないかと岩谷氏は言っています。

幸之助氏は、商品づくりの基本的な考え方として、「客のためになるものを売れ」と言いました。
もっとも消費者に近い流通の変化に家電業界はどう対応すべきだったのかを考えてみたいと思います。

現在、日本で家電をもっともたくさん売っているのは、ヤマダ電機やビックカメラ、エディオン、ヨドバシカメラ、ケーズデンキといった家電販売店です。しかし、世界的に見ると家電流行の主役は、前述のようにウォルマート(アメリカ)、コストコ(アメリカ)、カルフール(フランス)、テスコ(イギリス)、メトロ(ドイツ)などの「大型ディスカウントストア」にはっきりと移っています。

アメリカの家電専門店で唯一上位に入っているのはベストバイですが、実はここも主力商品は自社のプライベートブランドです。その意味ではディスカウントストアの一種と言ってもいい存在です。

こうしたディスカウントストアが家電小売りの主役に浮上してきた最大の理由は、やはり家電のコモディティー化でしょう。ブランドよりも価格が勝負となります。ディスカウントストアは丁寧な接客しない分だけ、店側の取り分(マージン)が低いのが一般的なので、薄利多売の中で利益を確保しなくてはならないメーカーにとっては、まさに絶好のパートナーということになります。

国内だけなら力のある家電量販店のルートで十分な数量を販売できますが、日本家電が再び世界で存在感を見せようと思えば、ディスカウントストアにどうように売り込むか、彼らを味方にするどんな手を打てるかが勝敗の分かれ目になってくるのではないでしょうか。

 

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