2013年2月22日金曜日

松下幸之助は泣いている(7)

 「立派な歴史伝統を持つ会社でも人を得なければ徐々に衰微する」と幸之助氏は人材の大切さを説いていました。

企業の針路を定め、売れる商品を開発し販売するのは、経営者や技術者、営業といった「人材」です。現在、アップルやサムソン、鴻海などの海外企業が最高益を計上し、対するパナソニック、シャープ、ソニーなどの日本企業が歴史的な大幅赤字という結果を見る限り、わが日本企業は人材の面でも後れをとっていたのだと認めないわけにはいかないと岩谷氏は言います。

日本全体を見ても、グローバルな見地に立てる経営者が不足したのではないでしょうか。

日本企業と海外企業の人材の質の違いは、学生時代にすでに始まっているのかもしれないと感じることもあります。

サムソンは「サムソン横浜研究所」を1992年に開設しています。

サムソンでは「日本で研究開発の仕事ができる」拠点として横浜研究所をつくりました。現在、サムソンは世界でも屈指の半導体メーカーとなっていますが、その飛躍を支えたのが、日本のエンジニアがもたらした当時の最新技術だったと言われています。

日本の大手家電メーカーの場合、リストラは一定の年齢で線を引いて行うか、希望退職者を募るかです。そうすると、どうしても仕事のできる優秀な人も対象になってしまいます。リストラが行われることがわかると、「辞めさせられる前に自分から辞めよう」という人も出てきます。退職した後に転職活動をするよりも、在職中に自分から売り込みに行った方が有利に転職できるからです。

いざという時にすばやく行動に移せるのは、えてして優秀な人です。

そういう優秀な人材は、技術的ノウハウや大きな顧客ルートを握っているだけではなく、目に見えない企業文化や企業理念もしっかりと身につけています。いわば付加価値のついた人材です。こうした人材が去れば、たしかに企業の固定費は圧縮されますが、それがそのままライバル企業に移って相手を強くするのに役立ってしまうというリスクもあるのです。

ちょうど将棋で駒を捨てると、それが今度は相手の持ち駒になって自陣に襲いかかってくるようなものです。まさにリストラは「諸刃の剣」と言えるでしょう。

アメリカでリストラを行う時には、訴訟に発展しないように、人種・性別・年齢など、さまざまな面でマイノリティーや弱者の要素のある人材を対象からはずさなくてはなりません。そうすると結果的に「若い白人の男性」がリストラされることになります。あるいは、事業所や事業部を閉鎖という形で全員解雇するかです。

リストラをやって、良い人材だけを残すことは至難の業です。むしろ、予想した以上に優秀な人材が流出していく、それがリストラなのだということを、企業はもう一度肝に銘じる必要があるということを強調したいと思います。

幸之助氏は自分が経営の先頭に立っていた時には絶対にリストラをしませんでした。1929(昭和4)年の世界大恐慌では、日本もアメリカ発の金融恐慌に巻き込まれ、松下電器も創業以来の大苦境に陥りました。

この時でも幸之助氏は、「うろたえては、かえって針路を誤る。そして、沈めなくてよい船でも、沈めてしまう結果になりかねない。(中略)嵐の時ほど、協力が尊ばれるときはない」といってリストラをいましめました。

他の多くの日本企業が従業員の整理解雇を進めていく中、幸之助氏の松下電器は雇用には一切手をつけませんでした。

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